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ウラルの宝石・鉱石展示会 -- エメラルドの輝き

uralimg2 広大なロシアの中央を南北に約2500?にわたってウラル山脈が連なる。地球の北半球にあるユーラシア大陸は、 このウラル山脈を境に、西はヨーロッパ、東はアジアと分けられる。資源が豊富なウラル地方では岩塩、鉄鋼、宝石、天然石が採掘されてきた。

ウラル最大の都エカテリンブルグ市では1月と7月を除く年10回、毎月中旬の3日間(金、士、日)に宝石・鉱石の展示会が開催される。 鉱石コレクターにとって楽しみなウラルの宝石・鉱石展示会を紹介しよう。

鉱石の宝庫ウラル山脈

 資源が豊富なウラル地方では、約500年前から岩塩が採掘され、過去300年間にわたって鉄鋼、 200年にわたって宝石や天然石など鉱石が採掘されてきた。ウラル地方だけで約40種類の宝石や鑑賞用天然石が採掘され、 1000カ所にもおよぶ産地が知られている。

賑わう宝石・鉱石展示会

uralimg1  1990年、ウラル地質学博物館のグゾフスキイ館長の提案により、エカテリンブルグにおいて、 ロシアで初めての鉱石および宝石加工の展示・見本市が開かれた。最初の展変会参加者はわずか15名であったが、 年々規模を増し、現在では1月と7月を除く年10回開催されている。展示会には200以上の企業や個人が出品し、 80%はウラルから、20%はロシアの他の地域および海外からの参加となっている。この展示会を目当てに、 業者やコレクター、観光客など年間3万人近くの人がエカエカテリンブルグを訪れている。最近では、 この展示会は宝石及び鉱石市場のセンターとしての役割を果たしており、会場では鉱物の文化および科学知識の普及活動が行われ、 販売も含めて各種サービスが提供されている。

ウラルにちなんで命名された宝石で世界的に有名なものでは、ウラルエメラルド(Ural emeralds)、 ムルジノ紫水晶(Murzinka amethysts)、オルスク・ジャスバー(Orsk jasper)、タギル孔雀石(Tagil malachite)、 セデルニコフスキばら輝石(Sedelnikovskiy orletz)などがある。ウラルのエメラルド鉱山で発見されたエメラルド、 アレクサンドライト(金縁石)、緑柱石、フェナサイト、トパーズ、ユークレースなどは宝石として加工される。 特にエメラルド、アレクサンドライトは世界中の博物館、美術館、コレクターの間で人気が高い。

ウラルエメラルド

uralimg9 エメラルドは「若さ、春、希望、魂の静けさ」を象徴する石。ビロードのようなしっとりとした緑は、永遠の探さと輝きを持つ。 古代から長寿、治癒の石、魔力やヘビなどの毒から身を守る石と言われてきた。

 ウラルでエメラルド鉱石が発見されたのは比較的最近の話である。1830年の秋、 エカテリンブルグの北東約100?のタコワヤ川流域でエメラルド鉱石が発見された。1831年には、ロシア皇帝直属のエメラルド鉱山になった。

 革命後、1918年にソビエト政府が鉱山を国営化。1930年代までエカテリンブルグ、ベルリン、パリ、ロンドン、 ニューヨークなどの世界市場でウラル産エメラルドが加工販売され、ウラルエメラルドの名前が浸透した。

 1991年ソビエト崩壊後、ロシア、イスラエル、パナマの合弁企業によるエムラル(Emural)が設立された。

アレクサンドライト

uralimg3  1833年、ウラルのエメラルド鉱山で農夫がエメラルドグリーンに輝く石を見つけ持ち帰った。不思議なことに昼間暗緑色だった石が、 夜の電燈の下で見ると赤くなっていた。これは魔法の石だ、ということで皇帝に献上された。 その日がちょうどアレクサンドル二世(注1)の成人の祝いの日だったことから、この不思議な石は「アレクサンドライト」と命名された。

 アレクサンドライトは「愛と嫉妬」の石。日中は春と希望の色である緑、夜になると激しい情熱憤怒の赤に変わり、 「心変わり」のシンボルとされている。アレクサンドル二世の悲劇(暗殺された)の後、悲劇、未亡人のシンボル」という特徴も加えられた。

 しかし、宝石級のアレクサンドライトは20世紀初頭には枯渇してしまった。20世紀初め、 ニューヨークのティファニー宝石店が大量のアレタサンドライトを買占め、20世紀半ば頃まで市場に出回っていたが、 在庫が尽きた後はウラル産アレクサンドライトは幻の宝石となってしまった。

鉱石を探す楽しみ

uralimg7  ウラルでは山野を歩けば偶然エメラルドなどの鉱石を見つけることがある。 ウラルの人々は、このような自然の恵みをコレクションして楽しんでいる。しかし万一、宝石級のエメラルドに出合ったら大変だ。 宝石類の所有や販売は取れ締りが厳しい。不法に所有すれば盗んだものと疑われ、牢屋で数年過ごさなければならなくなる。 「エメラルド探しは楽しいが、本物に出合ったら人生破滅だ」。なんともぜいたくな、しかし笑えない話である。

ロシア・CIS諸国の豊かな鉱脈

uralimg2  ロシアは昔から宝石および加工用鉱石の産地の国として有名である。ウラル、アルタイにおけるジャスバー(碧玉)は、 石の美しさとともに原石の大きさという点で大型芸術作品用として最良の材料資源だ。

 ウラル山地で採れる緑色の孔雀石、赤いばら輝石、東サヤン山脈の軟玉、 バイカルの青い天藍石は美しさにおいても材料資源の価値においても世界一である。さまざまな色と模様を持つ大理石はウクライナ、 ウラル、カレリア、カフカス、中央アジア、西シベリア、東シベリアにおいて発見、採掘されている。美しいオニキスの産地はアルメニア、 ウズベキスタンに多く、メノウはカフカスと西シベリアにおいて採掘されている。 ウラルおよび西シベリアの産地で採掘される海水のよう青色の「シベリア藍玉」、ウラルのエメラルド、トパーズ、紫水晶も極めて有名である。

 世界最大の琉拍の産地はカリニングラード地方であり、トルコ石の産地は中央アジア、ダイヤモンドはウラルとヤクート、 真紅のオパールはカザフスタン、水晶の産地はウラル、カザフスタン、東シベリア、パミールである。

 その他、ピンクの「シビリト」と呼ばれるシベリアにおいてのみ採掘される電気石、ダイヤモンドのように輝くフェナサイト、 濃い緑色のざくろ石も非常に貴重なものとされている。

 紫のビロードの輝きを持つチャロアイトは、世界でただ一つの産地バイカル郊外のチャラ川において発見されたもの。 20世紀後半に発見され採掘されたが、現在は鉱山が閉鎖され鉱床は閉じられている。それだけにコレクターの間では人気の鉱石だ。

鉱石コレクターの至福

uralimg4  鉱石コレクターにとっては、一つひとつの鉱石との出合いが、自分の人生の記憶と重なる。集めた石を眺めながら、 宇宙や地球の成り立ちに思いをはせたり、自然の造形に感嘆したり、その石を初めて見たときの驚きや発見談を思い出したり・・・。

 石との出合いはまさに一期一会だから「今見逃したら一生手に入らない」と思うと、どうしてもほしくなるという。 手に入れたお気に入りの石は、触ったり、ひつくり返したり、虫眼鏡や顕微鏡で覗いたり。 これほど実生活に役に立たないものでありながら、持つことで心を満足させられるものは、 他にはないだろう。奥深い鉱石の魅力の世界にあなたも足を一歩踏み入れてみてはいかがだろうか。

EURASIA View 2004 November Vol.36に掲載(2004年11月)